ワラウクルミ

【小話】仕事の渦との戦いと、ある浮浪者の旅路の行方

ちゃんとした記事を書こうとすると、調査と資料集めでなかなか大変なので、今回は少しいつもとは違って、自分で短い小話を書いてみました。完全な気晴らしです(笑)大した話でもないので、お時間のある方はさらーっと読んで頂ければなと思います。

仕事の渦との戦いと、ある浮浪者の旅路の行方

都会

 

毎日ひたすら車に乗って、今日の営業先へ向かい、いつもの問答を繰り返す。仕事への情熱?そんなもの、入社してから半年でちりぢりに消え去っている。

この保険会社で働き始めてもう5年になる。最初の2年間は、1つの契約を取るのにも苦労したし、毎月迫り来るノルマが嫌で嫌で仕方がなかった。顧客からは『女だから』とあからさまになめられていた。腹立たしいったらない。

何ヶ月か連続でノルマを達成できなかった社員は、容赦なく切られていった。『世知辛い』と一言で片付けてしまうにはあまりにも残酷な仕打ちだ。

しかも、うちの営業所の支社長は、社員にクビを告げるとき、最初は物腰柔らかに始めるのだが、だんだんその社員の使えなさに腹が立ってくるのか、『いつも結果が出せないのは君そのものに問題があるからじゃないのか?』とか、『君はどこの会社へ行っても使えないだろうな』などと言って、メッタメタに罵るのだ。

当然、その咆哮(ほうこう)を受けた社員は、会社を辞めるまでの約1ヶ月間、亡霊のような存在になる人も多く、中には1ヶ月たつ前に、自分から即日辞職を申し出る者も少なくない。

毎年、春に入ってくる新入社員のうちの何人かは、半年もたたないうちにいつの間にか会社から消えている。そうなっても仕方がない。この世界は非情だ。非情にならなければ、この業界では生き残れない。

『結果がすべて』と頭の中で何となく理解しているのと、実際にそれを手のひらに出して自分で飲み込むのとはわけが違う。『結果がすべて』という言葉そのものが胃の中に落ち込んで、体の隅々に行き渡ってから初めてその意味が分かる。

都会

 

私は、5年たってやっと『結果がすべて』というものが体中に染み渡ってきた。それと同時に、なぜか『虚しさ』という言葉もやってきて体を軋む(きし)ませ始めている。ぎちぎちと音を立てて。倦怠期なのだろう。そう自分に言い聞かせて、訪問先を後にし、再び車に乗り込む。繰り返し繰り返し。

うちの会社の生存者たちは、男女ともにほぼ半数ずつだ。『女では保険は扱えない』という考えは、もはやブラウン管テレビ並みに時代遅れだ。しかし、顧客の半数以上は、ブラウン管テレビをたたいて直していた時代の人たちであり、その人たちの信頼を勝ち得るのはいつも苦労する。

それでも、5年もやっていると相手の中へ侵入する話術と、体中を取り巻く『自信オーラ』が身についてきて、契約成立の頻度も格段に上がった。この仕事が面白いと思うこともあるが、その面白さはビデオゲームをしている楽しさとあまり変わらない。

契約が成立して自分のポイントが1つ上昇。毎日それを積み重ねて、月末までホワイトボードに書かれた自分の棒グラフがどれだけ高くなるかというゲーム。少し前から、ノルマを気にすることすらなくなった。気にすることで逆に自分の話術が強引になり契約成立の確率を下げてしまうからだ。

dealphoto by Nguyen Hung Vu

そうやって、毎月難なく・・・・・・といえば嘘になるが、特に悩むことなくノルマを達成し、追加報酬も受け取るのも当たり前になった。普通の会社員よりはかなりいい給料をもらっているだろう。そういうことは、面白いと言える。でも、『情熱』という言葉はどこを見渡しても当てはまらない。

就職が決まった5年前に、父は私に「よりによって保険屋か。そんな胡散臭いもんを売る仕事は長く続かんぞ。保険屋ってのは、どいつもこいつもぼったくりじゃ」と言って批判した。父と母は長年、農業を営んでいて、それに使用する高価な農機具が壊れたり、作物が被害にあった場合のために多くの保険に加入している。

「あいつら、わしが契約にサインするときだけホイホイしよって、いざわしが保険をくれって言ったら、しぶりやがるし、出したとしても少ねえ。はあ。お前がそんな仕事をするとはねえ」

母は、ただ一言「体にきいつけて頑張りんさい」と言って励ましてくれた。父の愛と母の愛の示し方はそれぞれ違うようだが、私はその時どちらも有り難く受け取った。

父の心配をよそに、私はこの会社で働き続けた。ほとんど意地でここまできた。会社という荒馬に振り落とされないように、必死にしがみつき続けた。結果は残し続けている。そもそも仕事に『情熱』を求めようとすること自体が間違っているのかもしれない。

出勤

 

しかし、母の心配はばっちり当たっている。家は朝の6時半に出て、家には9時に着く・・・・・・その時間に着ければ御の字だ。朝昼晩の3食のほとんどは、コンビニやスーパーの総菜だ。学生の頃にそういう会社員をコンビニやスーパーで見かけたが、まさか自分もそうなるとは思っていなかった。世の中、自分の見てきたものにあまり嘘はないということだ。

ほとんどいない自分のアパート。キッチンコンロは、ほとんど使うことがない。その代わりに、ゴミ箱の中にはプラスチックパックがどんどん積み重なっていく。仕事のストレスからか、よく食べるせいで毎月の食費代はなかなかのものだ。体重計は押し入れの奥にしまい込んで見えないようにしている。これでいいのよ、これで。

お昼時になってお腹も空いてきたので、いつものようにセブンイレブンに寄る。コンビニ弁当で、セブンイレブンに勝る品質を繰り出すコンビニは他にないと私は思っているので、いつもコンビニに行くときは絶対にセブンイレブンを選ぶ。これは、私にとって普遍の真理だ。

駐車場は、色々な会社の営業車や土木作業員のトラックで満車だ。少したつと、駐車場に空きが出来たのでそこに車を停め、今日は何の弁当にしようか考えながら車を降りた。

seven elevenphoto by Yuya Tamai

すると、そこに一人、激烈な悪臭を放つ老人の男がコンビニの側にしゃがんでいた。必死で鼻をつまむのを我慢しながら、その老人の側を通り過ぎようとしたとき、彼が小さなメモ帳に向かって何かを必死に書いているのが目に入った。もちろんじろじろと見るのは悪いと思い、ちらっとしか見なかったが、気になって仕方がなかった。

男は汚れたジーンズとパーカーと、くたくたになったリュックサックを側に置いていた。見た感じはどう見ても浮浪者だった。

私にとって、浮浪者が紙に何かを必死になって書いている光景は、とても違和感があった。浮浪者は、ゴミを漁ったり、夜の静まりかえった商店街の隅で段ボールに包まって寝ている人たちで、紙に何かを書いたりするのはちょっと変だと思った。

店内に入って弁当をどれにしようが眺めては見るものの、あの老人のことが気になって仕方がなかった。書くべき何かとはいったい何なのか?絵を描いているのか?もしくは、日記をつける?ふーむ。何にしろ気になる。

弁当に興味がわかなかったので適当に選んで、会計を済ませ、弁当を電子レンジで温めた。

コンビニを出ると老人は、まだメモ用紙とにらめっこをしていた。私は、失礼だとは思いながらじっと彼の書いているものを見た。

すると、そこには何かのリストと数字が綺麗に書かれていて、彼はレシートを片手にそこへ書き加えていっていた。その時、老人がふっとこちらを向いた。

「姉さん、人のものを勝手に見ちゃいけないって誰かに教わらなかったのかい?」

「すいません!のぞき見するような格好になってしまって」そう私が言うと、老人はにっこりと笑って

「いいだよ。冗談さ。別に見られて悪いものを書いているわけじゃない。ただの家計簿さ」

「家計簿・・・ですか?」

「まあ、旅をしてるとな、色々な情報が入りすぎて頭がごちゃごちゃしてくるんだ。でも、家計簿を書くとそのごちゃごちゃがすっと整理されるんだ。まあ、昔は人の財布を整理するのがおれの仕事だったわけだが、それは姉さんにとってはどうでもいいことだな」

「あの、どうして旅をしているんですか?」私がそう聞くと、老人は驚いたような顔をして、

「姉さん、何でも聞いてくるんだな」

「失礼しました!答えなくていいですから」

そして、老人はおもむろにメモ帳を閉じてから、立ち上がりリュックを肩にかけ、私から離れるように歩いていった。私は、失礼なことを聞いてしまったなと反省した。

私も車へ戻ろうと老人とは反対の方向へ歩こうとしたとき、老人が私を呼んだ。

「姉さん。おれはな、捜し物をしているんだ・・・・・・おれは色んなものを無くしてしまって、仕事もそのうちの1つだが、そんなのはどうだっていい。ある1つのもの。それだけはどうしてももう一度取り戻したいんだ。そのための旅さ」

そう言うと老人はにっこりと笑って振り返り、私から歩き去って行った。

私はゆっくり車に戻り、弁当を広げて食べ始めた。

彼の言った言葉を反芻(はんすう)しながら、彼の大事だったものを考えようとしたが、色々ありすぎて1つに絞れなかった。考え事をしながら食べるご飯はひどくまずい。私は、弁当をかき込んで、ゴミをコンビニのゴミ箱に捨て、車を発進させた。

運転しながら、自分の一番大事なものを考え続けたが、今のところ一番というものは決めることが出来なかった。さて、とにかく頭を仕事モードに切り換えなきゃ。

それから、何となくさっきまで体を軋ませていた『虚しさ』がどこかへ消えていることに気がついた。そして、もう一度あの老人のことを考えた。

「一番大事なものかあ」

今日も車を軽快に走らせる。目的地はすぐそこだ。

おしまい。

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